百合コレクション[本]

ガドルフの百合

ガドルフの百合

ちっとも現れない次の町にいらいらしながら、
青く光る柳の葉がブリキに変わったり、曖昧な犬が横切る
“もうすっかり法則がこわれた”場所を旅するガドルフは、
雷雨におそわれて真っ黒な家で雨宿りする。
寄宿舎のような避病院のような建物には、人の気配が
あるようなないような。
窓から覗く白い顔、雷の幻燈に照らされた百合の花を
見つけたガドルフ。


(おれの恋は、いまあの百合の花なのだ。いまあの百合の花なのだ。
砕けるなよ。)


音と色と光といらだちと、唐突な恋と。
雨と黄昏が見せた黒い闇の中に浮かび上がる書割のような
百合の印象がおもしろい。


夢十夜」の第一夜でも百合の花がでてきた。

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

「百年、私の墓の傍(そば)に坐って待っていて下さい。
きっと逢いに来ますから」と言い残して死んだ女に言われたとおり
真珠貝で穴を掘って女を埋め、星の破片を墓標にして、日がのぼり
おちていくのを数える男。いく日すぎたかわからなくなった頃、
石の下から青い茎がのびて蕾が真っ白い花弁を開く。
百合に接吻する男は、すでに百年たっていたことに気づく。

こちらはやわらかく匂いたつ百合の花だった。