ヴォイツェク*[本]

ヴォイツェク ダントンの死 レンツ (岩波文庫)

ヴォイツェク ダントンの死 レンツ (岩波文庫)

「いろんなことがありえますね、人間てものには!
何でもありだ。いい天気でありますね、大尉殿。
きれいな、どんより淀んだ空のど真ん中に丸太ん棒を
ぶちこんで、首を吊りたくなってきますよ、
それもただ、「そうだ、やっぱりそうだ」と「いや違う」のあいだに
ダッシュがあるためであります。大尉殿、イエスとノーとは?
ノーがあるのはイエスのせいなのか、イエスがあるのはノーのせいなのか、
こいつをひとつ自分でじっくり考えてみたいのであります。」

むかあし黒テントがやっていたチラシを見て気になってた
ビューヒナー(ドイツの劇作家1813-1837)の「ヴォイツェク」を
初めて読む。


美しい妻がライオンのような鼓手長と関係をもったことを知り、
刺し殺せという幻聴をきいて妻を殺してしまう主人公ヴォイツェク。


嫉妬から未亡人を刺殺した鬘師が、精神鑑定の結果、
責任能力があるとされて公開斬首刑となったという
現実に起きた殺人事件を題材にしている。


ビューヒナーは23歳の若さで病死したため
未完で配列もはっきりしない草稿が残された。


戯曲の中のヴォイツェクにも精神異常の兆候があり、
医師の人体実験に使われているようである。
年中せきたてられたようにせかせか走り続けるヴォイツェク。
正直者、善人であり、底辺に生きるヴォイツェク。
幻聴に襲われる前から何かに追われたり、恐ろしいものを見る
ヴォイツェク。それは運命の前触れのようでもあり、
彼の精神状態、置かれている状況からくる混乱・混沌のようだ。


この時代の戯曲をどう読めばいいのか、最初は戸惑いながら
読んだが、不条理劇のような台詞、ヴォイツェクの造形に
強い印象を受ける戯曲。